週末開拓民奮戦記

ハンドカット&セルフビルドのログハウス(91)

大きな画像とリンクしています。

2007年7月(4)
相変わらず週末は雨の予報。
ムシムシ、ごみごみの町に居るよりは、ずっと気持ちがいいから、雨が降っても山に行こう。
と言うよりは週末には山に帰るのが、気持ちの上では当たり前になっている二人である。
このところハードで疲れ気味のkiiさんは、行っても大したことができるわけではないが、それでも行かないとなると、宿題をやり残したようでなんとも居心地が悪いそうな。

土曜日、雨の止み間をみてkiiさんはドクダミを、私はスギナ摘みに精を出す。
最初から雨だと観念していたので、諦めがいい。
むしろ、作業ができる程度の小止みを与えてもらえたことがありがたい。なんと謙虚な二人だろうか...。

ドクダミもスギナも今年はあまり収穫できない。
一年間使用するための量がまだ確保できていないが、この調子では行脚しなくてはいけないかと少々気が重い。

日曜日は曇りから晴れベースでやれ嬉しや...。
どこもかしこもボトボトに濡れているがそんなことはものともせず、kiiさんはブルーベリー畑や、野菜畑のネット張り準備に追われ、私は草引きに出る。


晴れたら晴れたで、滴る汗と早や飛び出したアブさんに泣くのだが、それでも土砂降りよりははるかにいい。
ところで、ウシアブはまだ対応がしやすいが、シロフアブには参ってしまう。
すばしっこくてしつこく、衣服の上からでも平気で刺すのだからたまったものではない。
小さくて目立たない上に一見、蝿のような色をしているからつい油断する。
それに
刺されると悲惨である。ウシアブの毒よりもかなりきつい。なにかいい方法がないものか...。
昨年、数箇所を刺されて腫れあがり、ひどい目に遭ったことを思い出してため息をつく。
道路際の土手のあじさいたち 倶楽部はヤマアジサイが大方終わり、今は西洋アジサイたちが真っ盛りである。
庭の内も外も、一番の見頃を迎えている。
梅雨にはアジサイがよく似合うが、当地では梅雨明けの頃からが美しいのだから、季節感には相当のずれがある。
土手の水仙エリアのアジサイ
夏休みに会える子どもたちが、どれほど成長しているか...。彼女たちが来るまでにはできるだけ草引きも進めておきたいものだ。そんなことをあれこれ考えながら草を引いていた耳に、少し離れた位置に車が止まりパンッとドアを閉める音が届く。 「知り合いならもっと近くに駐車するはずだし、何かな?」と怪訝に思い首を傾げていたのだが、中年の短パン姿の男性がチラッと目の端を掠めたかと思うと、近寄らずに消える。
尚更不思議に思い表に出てみると、なんとその連れの女性がアジサイの枝を切り取り、車に放り込もうとしているその瞬間だった。

そこで私は声を荒げる。
「それって、どういうことですか!?」
「いや、あの、その、家があるとは思わなかったんで...。」
「ほうっ、というと家がなかったら人のものでも勝手に盗ってもかまわないと、そうおっしゃるんですね。」
「いや、人のものとは思わなかったんで...。」
「これが他人のものではないと!?この柵が目に入りませんか?その中に植えてあるものは、人のものではない?それに、これが自然に生えているものに見えますか?仮に山に生えているものでも、みんな所有者がいて、所有権というものがあるんですよ。そんなことはご存知でしょう?恥ずかしい言い訳はおよしなさい!!」
「あっ、すいません。返しますんで...。」
「返せばいいというものじゃないでしょう?お宅が庭に咲いている花を盗られたり勝手に切られたりしたら、どんな気持ちになりますか?許せますか?イヤでしょう?」「いやぁ、ハイッ、そりゃ、そうです。」
「自分のものは盗られたら腹が立つでしょう?でも他人のものは平気で盗るんですか?そんな勝手な理屈が許されると思っているんですか!!」

騒ぎに表に出てきたkiiさんが「山のどんな小さな土地にも所有権者はいるんですよ。ほら、あそこにもここにも境界杭があるでしょう?だから勝手にとってもいい土地なんてないんですよ。」と川べりを指し示すが、そんなものは馬耳東風、馬の耳に念仏だと、私は納まらない。
あまけにその女性の手には、上等そうな枝切りバサミがあるのだから怒りがいや増すのである。
「そんなものを持っていること自体が、常習だと公言していることでしょう!?」「いや、これはいつも持っているんで...。」
「そう、いつもね。だから、それこそ計画的だということでしょう?」

「この花が綺麗なもので、一枝挿し木にいただけませんか?」と言われたら、誰も厭と言いはしない。
元来花を切って活けることが好きではない私でも、花付の枝を差し上げるだろう。
花を楽しんだ後に挿し木してくださいと。
小さな枝を挿し木して、年月をかけて丹精こめて育てているものを、どうして平気でこんなことができるのかと情けないやら悔しいやら、私の血圧はきっとその時180ぐらいまで(かなりリアルだ。)上がったに違いない。

「ずっとここに住んでいるんですか?」「ずっとここに居るんですか?」なぜそんな言葉が何度も出てくるのか。
それを聞いた瞬間に頷けたことがある。この春から何度か、変だなと思ったことがあった。
もう咲いていると思った花が見当たらなかったりするのを訝しく思い、kiiさんにも幾度か何か妙な気がするとは言っていたのだが、まさかと思い悪食の鹿のせいにしてきたのだ。
確かに横暴の限りを尽くしている鹿たちだけれど、彼らこそ迷惑至極、中には練れ衣の数件はあったかもしれない。
「そんなことがお宅に何の関係があるんですか?」と返しながら、「この人たちは初めてではない!!」
言葉の端々に、そう確信する。
「車番を控えさせていただきますから...。」

「こんなに怒ったkeiさんを見たのは久しぶりだったなぁ。イヤ、今までで一番かも。彼らもさぞかし恐かっただろうなぁ...。」
北海道に住む友人たちからは、「keiは北海道の言葉ではなくなってしまったね。」と言われているけれど、いくら関西のイントネーションが混ざっても、緊張すると途端に標準語ベースになってしまう。
関西の言葉に比べるとかなり歯切れのいい標準語は、決してきつい言葉ではないのだけれど、慣れるまでの間、kiiさんはずいぶん恐い思いを体験してきたのだそうな。
「思わず顔写真を撮っておこうかと思ったぐらい、怒髪天を突くの心境だわ。あの二人、顔写真がなくても忘れられそうにないけどね。」
和泉ナンバーの○○さん、「天網恢々疎にして漏らさず」ですぞ...。

怒りの後にじわりとこみ上げて来たものは深い哀しみだった。
いい大人が平然とこんなことをすることに、そして、そんな無神経な大人が子どもを育て、またたくさんの無神経な人間を作り上げていくだろうことに...。

2007年7月(3)
海の日の連休を利用してマツさんが訪問してくださった。
以前からネットでは親しくさせていただき、kiiさんも私もずっとお目にかかりたいと思っていたのだが、今回、思いがけず実現することになりとても楽しみにしていた。

あいにく大型の台風4号が襲来。土曜の午後遅めに野迫川入りしたのだがすでに大雨。
小止みを見計らってはチョビチョビと荷降ろしをする。
来訪予定は15〜16日だが、15日の早朝に台風が最接近とのことで、ニュースをつけっぱなしにしてハラハラ。
雨は一晩中きつく降り、雨がやんでもまるで豪雨のような渓の音が周囲を覆い尽くし、濁流の凄まじさときたら恐ろしいほどである。
幸いなことに倶楽部は渓の際からはかなり離れていて、しかも広い県道を間にして高低差もあり何の心配もないが、これが川沿いならどうだろうとぞっとする。改めてここを終の棲家にと定めたkiiさんの賢明さに脱帽する。
それでも、裏山から流れ込んだ雨水はてんでに集まって激しい音を立て、ログ前の池から溢れた水と共に、庭の下段へと水の道を作って流出している。
裏山と倶楽部の間にある小さな谷が、獣たちの滑降で埋まり、水が抜け道を探して流れ込んでいることにもよるのだが、ライフラインの頂点にある貴重な水、命の水、太陽と土と共に植物にも限りない恵みを与えるその水が、いざ自然が猛威を振るった折には一変して荒れ狂い凶器となって襲いかかる、今回はそんな恐さをまざまざと感じさせられている。
雨は断続的に降るが幸いなことに風は静か。
「予定通り出発します。」とのマツさんの言葉に、道中土砂崩れなどがありませんようにと無事を祈りながら待つ。

その間にもkiiさんは、出来ることだけでもしておこうと土砂降りの雨の中、止まってしまった谷の水の修復作業に向かう。
レンガで積んである取水のための小さなダムは、土砂が詰まって埋もれていたそうだが、傷みが激しく決壊寸前らしい。
水量の少ない真夏に工事しなければと、また一つ案件が追加された...。
はじめまして!  ようこそ! そうこうしているうちに、マツさんは意外と早くに到着。
「はじめまして!!」  「ようこそ!!
挨拶もそこそこに 、すぐさま意気投合して話し始めるマツさんとkiiさんだった。
はじめてお会いしたようには感じられず、昼食をとりながら話が弾む。
その昼食の最中、ミシッ、ズズズズッ、ドッシーン...。  たまたま見ていたkiiさんはただ「アッ、アッ、アッ、白樺が...。」
吃驚して表に飛び出す。三番目に元気がなかった白樺が根元から倒れている。
台風としては風は静かだったものの、それでも木々たちは揺らされてはいたのだったが、こんなにあっけなく倒れるほどに吹いたかと首を傾げる。
倒れてしまった白樺 弱っているので気にはしていたが、葉も青々としていたのでこんなにあっさりと倒れてしまうなど思いもよらなかった。
大好きな白樺とはこんな風に縁が薄い。
花芽もたくさんついていたのにと残念である。
根張りも弱かったようで、しかも根元には、ボッカリとカミキリムシの食害の大きな跡がいくつもあった。
こんなに元気だったのに
傷心の私は食事の後片付け。マツさんとkiiさんは止み間を狙って倶楽部内や周辺の散策へ。
倶楽部内散策中のマツさんとkiiさん 木々や草花の端境期にあたり、ナツツバキやヒメシャラなどが咲いているだけで花が少ないのが残念だった。
草ボウボウで手入れが行き届かない倶楽部内に、マツさんはさぞかし唖然とされたことだろう。
倶楽部内散策中のマツさんとkiiさん
入浴を済ませて遅めの夕食はメインがバーベキュー。
ところが炭火がいい具合に興り、サァ、三元豚のスペアリブを焼きましょう...というところでまたまた雨。
雨で急遽室内に移動したバーベキュー 急遽、建設中のリビングキッチン内に移動する。
各種道具類や荷物が山積してある室内はあずましくないが、雨には勝てない。

田舎暮らしのこと、家造り、畑作りのこと、木々のこと、マツさんの拠点三和町や山遊びの小屋を作られた関の宮のこと、野迫川のことなど、お話をしながら食事を楽しむ。
話が弾む♪
翌朝は晴れの気配で、時折お日様が顔を出す。
倒れてしまった白樺の処理中 朝食を済ませると、最初の仕事が昨日倒れた白樺の処理。
小切って見ると、至るところにカミキリムシの食い尽くした跡があり、その痛々しいこと。
涙が溢れそうになって、必死でこらえる。
何しろ、白樺、スズラン、ライラックといえば私にとっては原風景なのである。

ミョウガ畑で 左はミョウガ畑にてマツさん。右は作業中のマツさんとkiiさん。
年齢には少なからず開きがあるが(勿論、マツさんが大分若い)、二人とも穏やかな性格で、談笑しながらの和やかな作業風景を眺めつつ私もついニコニコしている。
作業中のマツさんとkiiさん
遅めの昼食後、休憩。楽しい時間ほど早く過ぎ行くものとはいうが、ほんとうにアッと言う間に別れのときが訪れる。
またお会いしましょうとの握手をガッチリ。
折から激しく降り出した雨に追われるように町への車に揺られながら、「心配りの細やかな、気持ちの優しい方だね。」と思い返す。
うっとうしいじめじめした梅雨のさなかの休日を、心楽しく過ごさせていただけたことが嬉しい。


週末開拓民奮戦記へ戻る  ハンドカットのログハウス(90)  夢の轍のTOPへ