つれづれなるままに |
2006年10月 |
10/28 | カモシカ遭遇記 |
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つい先日のこと。 村の長老がキノコ山の帰りに立ち寄って暫し歓談されたのだが、その折の話題はもっぱら熊、猪、猿にアナグマ、鹿やカモシカに終始した。 村のこの地区にもはぐれ猿が二匹いて、悪さのし放題とのこと。 まだ倶楽部には現れていないが、時間の問題かと恐々とさせられる。 あまりの被害に、畑の周囲をぐるり囲む工事をした家もあるそうだが、掛かった大金の割には効果が少ないのだそうな。 一時は効果があるようだが、獣たちも学習するのか、猿も鹿もアナグマもまた大手を振って、なのだとか。 昨年の野迫川村の熊事件は新聞にも取り上げられていたが、山筋を二つ越えた5キロほど先の出来事だったと聞いていた。 だが、遭遇したのはどこどこの誰で頭を27針縫ってなどという話は、妙にリアルで震えがくる。 鉈で防戦したそうだが頭を両手で(いや、前足でというのが正しいか)押さえ込まれたそうな。 数年前にあそこの奥の山で熊に出会ったのは○○で、血相を変えて飛び込んできたが、歯の根が合わないほどだったと聞くと、その場所は昨年の熊事件よりもかなり近く、迂闊に山歩きも楽しめないとゾッとする。 猪は今までにも倶楽部内で散々の悪さをして、ユリ類をはじめとして、ホトトギス、ミョウガ、自然薯などの根芋を食い荒らしている。 親根を食べた後の数年は小規模の荒らし具合だが、大きくなった頃を見計らっては再び大胆な改修工事を遂行するのが今までの例である。 今年はその大胆な年に当たっているのではと、例年よりも冬の訪れには神経質になっていたのだが、もう既に川べりなどはひっくり返されているそうだから、予測は当たっているかもしれない。 鹿やカモシカは木々の新芽や若い枝を食い荒らし、木の皮を引き剥がす。丸裸にされて枯れてしまった木も数多く、加減して食べられないものかと忌々しい。 彼らは、我が家の大切な冬の青物であるミズナも全滅させてくれる。 倶楽部では猪の被害は相当以前から起きていたが、鹿やカモシカに関してはここ数年のことである。 長老イワク、近年鳥や鹿などが松茸を食べるようになり、年々被害は拡大しているそうだが、横に雑茸があっても見向きもしないのだとか。(この辺りでは松茸以外は雑タケと称するらしい。) 松茸山で鹿の親子に出会ったことも一度や二度ではないと聞きながら、1キロ10万円といわれる蕾のマツタケを、堂々と食べている様子をつい想像してしまう。 昔はマツタケを食害されることはなかったそうだから、彼らの食性が変化したのか、それほど山に食料がないのか、いったいどちらだろう。 美味しいものに目覚めたグルメの鳥や鹿たちは、さぞいい香りがするに違いない。 カモシカは天然記念物に指定されており、よほどの事情がない限りは捕獲できないそうだが、現在は保護で生息数が増えすぎている地域もあるように聞く。増えすぎるということが彼らの食料不足に繋るという、悪循環が生まれているのかもしれない。 確かに、倶楽部の土地を手に入れた頃は、今ほどにカモシカの鳴き声を聞くこともなかったような気がする。 そんな話をしていた2時間ほど後のことである。 もう薄暗くなってきたが、kiiさんはまだ屋根の上で作業をしており、私は手元が見える間だけでもと草刈りに精をだしていた。 カサッツ、と音がする。 ずっと住み着いているコジュケイのペアがまだそこいらにいるのか、それにしてもこんな時間に、コジュケイは鳥目ではないのかなどと思いつつ手を動かしていた。 再び、カサッツっと音がしたので、葉を落とした木立の向こうを見透かす。 「エッ、何?」 4mの先に居たのは何と、体長60cmほどの灰茶色のカモシカ。 厚かましすぎる!! 屋根の上ではkiiさんがまだ、サンダーでジャーン、ジャーンと激しい音を立てているし、私はといえばバッサバッサと凄い勢いで草を刈っている。 出てくるなら、普通は人気のない早朝か深夜だろう。ましてや、人工の音がする時刻は彼らだって避けるはず。 それがいったいどうだろう。ちっとは遠慮というものがないのか、あまりにも厚かましすぎる。 私は思わず大声で威嚇する。「ギャオーー!!」 屋根の上のkiiさんが大慌てして、「どうしたッ!?」と大声で叫ぶ。 この世のものとも思えぬ声を張り上げて絶叫しながら、鎌を片手に追いかける私に、カモシカもさぞ吃驚したことだろう。 脱兎(?)のごとく逃げ出した。 それも裏山の一番急斜面のシャクナゲのエリアを、いとも簡単に駆け上る。 とてもじゃないが並の人間に直登できる角度ではない。 裏山が最近ひどく崩れている原因はなるほどと思わされる。 カモシカの足は太くてずんぐりしている。臀部なども決して美しくない。 カモシカのような足というけれど、それはカモシカのことではなく、レイヨウ(Antelope)のことだとは以前に本で読んだことがある。 ブリブリの後姿を、私は唖然として見送っていた。 |