つれづれなるままに

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2004年2月
 
ばばあ、ほていうお、ねこまたぎ
       
2/13  ばばあ、ほていうお、ねこまたぎ
「何か美味しいものが食べたいね!!」
そう言うときの私たちは、いつも決まって魚を想定している。
魚は特定されていないのだが、とにかく魚類でさえあればいいのである。
昨日も仕事の帰りに、どちらともなく先の言葉を呟き、時折り行く魚屋さんへと回り道をする。

食い意地の張っている私たちは、「絶対にこの魚」とか「大きな魚の丸ごと買い」と決めている日には堺の魚市場に行くのだが、早朝からやっていて、しかも午前7時過ぎに大方が無くなるという市場だから、6時頃には着かなくてはならない。
美味しい魚を食べるのにも、早起きをするという根性がいるのである。
普段はそんなことができないから、近くの「時折り行く魚屋さん」を利用する。

「鍋にしない?」「そうだね。今日は冷えるし、刺身の気分じゃないね。」
ところがその日は、鍋用にと並べられている魚に、あまり食指が動かなかった。
どうしようかと逡巡していた私の目に、黒々として不気味な雰囲気の得体の知れないものが留まる。
お初にお目にかかったそのグロテスクな魚に、kiiさんもちょっと引き気味である。
「この魚、何というんですか?どういう料理に向くのかしら?」
何でも聞いてみようの精神が旺盛な私たちである。
「これね、ほていうおっていうんだわ。鍋にしてもいけるよ!!」
それだけなら買うことはなかったのだが、「この魚、北海道から来たんだよ。ここの社長、富良野の出身でね...。」の言葉に、その安さに味のほどを疑いながら、とにかく食べてみようと購入してしまった。2尾で税込み525円也。鍋の食材としては安い...。

料理はkiiさんにお任せである。
我が家はよく丸たの魚を買うけれど、調理人がいるので私には出番がない。
それに甘えて、私は三枚おろしさえもしたことがない。
決まっての台詞が、「私より先に逝かないでね。美味しい魚が食べられなくなるから...。」なのである。
この魚は、まるであんこうのようにヌルヌルして捉えどころがない。
kiiさんは珍しく、悲鳴を上げながらの調理と相成った。
ほていうお 調理済みのほていうお
ほていうお(布袋魚)「ごっこ」とか「いわふっつぎ」とも呼ばれ、上腹部にある吸盤が特徴のダンゴウオ科の深海魚だそうな。太平洋は関東以北、日本海は若狭湾以北で冬季に獲れるらしい。
ゴッコ汁なるものが美味しいのだとか...。
ほていうおの鍋は、ゼラチン質が身体にとても優しかった。

そういえば、「ばばあ」という魚を知ったのもこの魚屋さんだった。
やはり冬場に、鳥取県岩美町辺りで獲れる深海魚で、キツネタラの別名を持つ。
シワだらけの魚の表情から、ばばあなる名前が付いたらしいが、学名はタナカゲンゲ。
深海のナマズとも言われる。
最近は、ばばあという呼称があんまりだと、「ばばちゃん」と呼ばれているらしい。
グロテスクな魚で、そのときもkiiさんはかなり引いていたっけ...。
アンコウやホテイウオとおなじく、ゼラチン質の魚だった。
私たちは鍋にしたのだが、刺身、照り焼き、塩焼き、煮付けなどにも重宝され、今までは漁師さんの余得として、ほとんど市場には出なかったのだとその折に聞いた。

「見た目はどちらがお好み?」とkiiさんに尋ねたら、彼は返事に窮していた。
ババアなる魚があるのならジジイはと調べたら、ジジイはないけれどオジサンはあるらしい。
ばばあは愛すべき存在として名付けられたのか、それとも、と考えると少々複雑な思いがある。

一度食してみたかったのが「ネコマタギ」で、ずっとそういう魚があるのだと思っていたのだが、
kiiさんに「ガハハッ」と笑われて、初めてそんな名前の魚はないことを知った。
ネコマタギは、魚の好きなネコでさえ跨いで通る不味い魚、価値の低い魚の総称なのだと...。
ネコマタギと言われる魚が各地で異なる訳がやっと理解できて、海の傍らで暮らさなかった私の知識が一つ増えた、若い日の話である。

こんなことを書きながら、今 私の頭の中にはハタハタが渦巻いている。
ニンニクを効かせたハタハタの煮つけを、お腹一杯食べたいなあ...。
幼い頃は苦手だったハタハタの寿司も、近頃、妙に懐かしく思い起こしている。

   

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