つれづれなるままに

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2004年6月
 
【ネコネコ、子ねこ】
 
6/07  ネコネコ、子ねこ
街での出来事である。
裏庭で洗濯を干していると、薄暗い片隅で微かに動いたものがある。
目を凝らして覗き込むと、なんとマア、小猫が4匹、ガラ入れ用の袋の上に鎮座しているではないか...。
どこから入り込んだものか、留守がちなこの家は追い払われることもなかろうと、親猫は安心して住処に定めたものらしい。
「アラアラ、困った。」
街の家は仮住まい。動物の飼育は禁じられている。
それでも密かに飼う輩もいて、この子ネコの親たちは飼い主の引越し後に残されて野良になったものらしい。
よちよち歩きでまだ弱々しいながら、つぶらな目で見つめられるとなんとも可愛らしい。
サア、困った...。情が移る。
二度目に覗きに行くと母ネコが戻ってきている。
私の姿を認めると、慌てて逃げ去り少し離れた場所から様子を伺っている。
飼えない以上、棲みつかれては困る...。
仕方なく速やかに退去していただくことにする。
お隣りの方が「大丈夫よ、どこかへ連れて行くわよ。」
そう言われるので隠れて様子を見る。
私は親猫が小猫の首筋を咥えて運ぶ様子を今まで見たことがない。この際、しっかり見学させて貰おうとカメラを構えて待機する。
言い聞かせられているのか、子猫たちはじっと大人しい。
一時間ほどして、一匹目を連れに来た。

鮮やかな連れ去りの図に見惚れて、カメラは親猫の逞しいお尻しか写せなかった。
真剣な目つきで必死に狭い切り戸の下を潜っていく。
一番大きいしっかりしたのを連れて行ったらしい。
その次は右端の白が入った子。
午前中に二匹を連れに来て、それから音沙汰がない。
子猫たちは鳴き声も立てずにひっそりと待っている。お腹も空くだろうに...。
「動物の母性本能はとても強いから、心配しなくてもちゃんと連れに来るわ。」とお隣りのおば様。
そう言いながらも気に掛かるのか、時々垣根越しに覗き込んでいる。
連れ去る順位には理由があるのかどうか判らないが、結局一番小さな弱々しい子が最後に連れて行かれたらしい。理由などないのか、種を守るための優先順位か、単なる手近からだったのか...。
私は所用で出かけたので、最後までを見届けることができなかったが、一匹残らず連れ去られた裏庭に出て、ちょっぴり寂しさを味わっている。
それにしても、親猫の小猫を案ずる目のひたむきさに私はタジタジとさせられた。
鋭く強い目の色だった。
母性喪失、親権失格、児童虐待...。毎日のように暗いニュースが流れるけれど、人間は一体どうしてしまったのだろうね。話すことができたら、親猫は何と答えるだろう。
虐待した大人がどんな理由付けをしてみても、通る話ではない。
我が子を愛しく思うのは本能のはず。それを放棄するなら子どもを産むべきではない。
力のない幼子に暴言暴力が許されるはずがないのに、陰湿な虐待が後を絶たない。
現代人は親になるための資格が要るほどに、堕落してしまったのか...。

後日、
ガサッと音がして裏のガラス戸を開けて見ると、最後に連れ去られた二匹を従えた親ネコが、澄ました顔で見返してつんと首をもたげ、堂々と庭うちを闊歩している。
ふてぶてしい、でもどことなく憎めないその表情には母猫のゆるぎない自信が感じられて、つい笑みが浮かんでしまう。
そのフッという笑いが勝負に負けたということなのか、以後この二匹の小猫は何処からともなくやってきてはひっそりと裏庭で遊んでいる。
テラスの隅にkiiさんのシャツを持ち込んで、二匹でいかにも心地よさそうに昼寝をしている様子には、なぜか忍び足でそっと立ち去る私である。
生まれてすぐに連れて来られた場所だったからか、故郷のような思いがあるのかもしれない。
それにしても、野良さんは逞しい。
安全だと見て取ったのか、二匹は此処でお遊びなさいと...。
でも放任しているようで、決して目を離しているわけではない母ネコの様子を見ていると、君は偉いよと呟いてしまう。
4匹をまとめて住まわせる場所が見つからなかったのか、それとも危険を避けて二組に分けたのか、他の兄弟はまた別の安住の場所を見つけたのか...。

私は、子猫の訪問を今日も密かに心待ちしている。
      
             

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