つれづれなるままに

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2003年5月
 
【ライラックのこと。】いずこも...。マナーは守ってね
 
5/21  ライラックのこと。
北海道で暮らしていた頃、家の前には大きなライラックの木があった。
大きな花房が重く垂れ下がるように無数に付き、門口を出入りする度に、立ち止まって感嘆せずにはい
られなかった。花も見事だったが香りも素晴らしかった。
それは植物好きの母が植えたもので、母が好んだ青みがかった紫色の花だった。
私の思い出の中に生き続けているライラックは、だからこの色...。
何度かの転居の中で、このライラックはいつの間にか消えてしまったけれど、あの色だけは今も心の中
に鮮やかである。
ライラックには目がない私だが、探し続けているこの色にはまだ出会えていない。
何でもペルシアハシドイの中にはこの系統の色があるのだとか...。

もう4年程前のこと、通販の某大手園芸店のカタログで青っぽいライラックを見つけた私は、躊躇するこ
となく飛びついた。それも二本も...。
それが「エスタースターレ」という品種だった。
小さな苗が届き、それは将来寛ぎのメインになる筈の場所に特別丁寧に植え付けられた。
亡母との思い出に繋がる、私にしてみれば鎮魂の木とも言えるものだった。
スクスク育って...とはいかなかったが、何とか切り抜けて、エスタースターレは今年初めて蕾をつけた
のである。
どれほど開花を心待ちしていたことだろう。
倶楽部に着いたら真っ先に走り寄るのがこのライラックの所、という週が幾つか続き、そしてやっと蕾に
色が出てきた。
「なんだか変だ...。おかしい。」青っぽくないのである。
翌週咲いた花は何と薄いピンクではないか...。泣き出したい心境だった。
エスタースターレ 原因は...。
申し込んだカタログには、ピンク系、青系と花色が記載されていたわ
けではない。
掲載されていた写真は青みを帯びているように見え、私はそれが現
実の色だと信じ込んだのである。

カメラや加工の手段、印刷によっても、実物の色と微妙に異なってい
ることはままある。
「でも、まさかこの色のライラックがあの色だなんて、信じられる??」
引っ張り出したカタログをkiiさんに突きつけてみても仕方がないのだが、このガッカリした気持をぶつけ
るところは彼しかないのだから諦めてもらうよりない。
花咲く日を待った年月が長かっただけに、落胆も大きかったのである。
カタログ販売で苗木を購入することの難しさを痛感した出来事だった。
花苗と異なり、花が咲くまでに何年もかかる苗木は、育てる楽しさもあるけれど、時にはこんな苦い体験
もしなくてはならない。
なおも積み上げてあったカタログを調べると、その申し込みより少し後の冊子には、「エスタースターレ」
としてくっきりと、ピンク色の写真が掲載されていた。
はじめにこの写真を見せてもらっていたら、購入することはなかったものを...。
何しろ倶楽部には、既に紫花、桃花、白花と10本を越えるライラックが植えられているのだから。
通販カタログの見本花の記載は、くれぐれも慎重に願いたいものである。

今、二本のエスタースターレを前に、複雑な心境でいる。
            
5/13  いずこも...。
12日の日本経済新聞朝刊に掲載されていた「月曜レポート」の記事は興味深かった。
シカやイノシシが線路内に侵入し、衝突事故が急増しているそうな...。
特にJR紀勢線の一部区間はこの事故の多発地帯なのだそうである。
あれこれ対策を施すものの、効果のほどはイマイチなのだとか。

以前この区間の苦慮の対策として、猛獣のフンを水に溶いて散布している記事を読んだが、担当の職
員もさぞ大変なことだろうと思いながら、野迫川倶楽部でも試みてみようと考えていた。
この妙策は散布者の鼻を歪めただけで、イノシシやシカへの効果のほどは「あったとはいえない」ものな
のだそうである。という訳で、私たちもこの案からはあっさり撤退することにした。

記事の中に、「野生動物は白を嫌うので線路脇に棒状の発砲スチロールを1.5mおきに垂らしたが、し
ばらくすると鹿が“ただの棒”と学習する」とある。
試してみようとも思うが、ただの棒と学習するまでの時の間はどのくらいなのだろう。
あまりに短いのであれば、そのために費やす時間が惜しい。
第一、不燃ゴミを大量に持ち込んで効果がなかった場合を考えると、その処理にも悩まなければならな
くなる。
人の髪の毛を吊るすこともされたそうだが、これは知人も試して効果がなかったと話していた。
金属を嫌うとも聞いて、倶楽部では足場から切り外した番線をばら撒くなどの、庭にとっては相当に不
細工なことも試みてみたが、これもさほど効果があったとは思えない。
野迫川倶楽部はカモシカよりもイノシシの害のほうがかなり大きい。
昨年は、不作だったミョウガを、追い討ちを掛けるようにほとんど根こそぎ状態にされてしまった。
熟考の末、kiiさんのアイデアである試みをしているが、効果のほどはまだ明らかでない。

記事にもあるように、以前は食料のない時期に里に下りてきた獣たちが、近頃は年中出没する。
苦労をしなくても食料が手に入る方法を彼等も学習しているのだとは、この6年間の山の遊びの中でも
感じていたことだった。
山奥を棲み家にしていた彼等が、どんどん人家との距離を狭めている...。
「安易が楽でいい。」とは、軽薄で短絡的な人の姿を見ているようで笑えない。
山に近付く人間の責任ばかりとは簡単に言えないものが、あるような気がしてならない。

別な知人の所では、畑の周囲に二重三重に金網を張り巡らし長い間イノシシとは無縁だったが、昨秋
ついに彼等の知る所となり、丹精こめた枝豆を全滅させられた。
一粒残らず綺麗にしごいて食べてある、その完璧な食べっぷりには唖然としたものである。
こうなると、あっけにとられて「お見事!!」と言うしかない。
蹴散らして掘るだけでなく、彼等はこんなこともするのだ...。
そのうち熊たちのように、器用に両手を使うようになるのではなどと考えてしまう。
「そんな馬鹿な...。」とkiiさんは呆れた顔をする。
発達する文明の中で人の機能は退化していくものもあるやに聞くが、獣たちはゆるゆると密かに進化し
ているかもしれない。
そんなことが胸にあったせいか、その夜の夢は不気味で恐ろしかった。
            
5/07  マナーは守ってね
快晴の連休ともなると、人は誘われるように自然に心が向くものらしい。
連休最後の三日間は、日頃人気(ひとけ)の少ない野迫川でも山菜採りの人たちをよく見かけた。
タラやウドは、初夏のクリーンキャンペーンの草刈りで切ってしまうのでほとんど見当たらない。
何を採っているのかと見やると、道ばたや川沿いに生える山ブキが主な目的のようだ。
フキは春先のフキノトウから楽しめるし、この時分には伸びた茎がキャラブキ(フキの佃煮)にされるの
か、農産物の直売所でも束になって売られているのをよく見かけるが、愛好家は自ら野山に摘みに出
るようだ。

その連休の間の出来事である。
早朝から山の斜面で伐採をしていたkiiさんも、同じく山の急斜面にグミや赤花のキブシなどを植え込ん
でいた私も、10時ごろにはどちらともなく「お茶にしない??」と声を掛け合い、青空や流れる白い雲、
蔭を作り出した白樺や木々を渡る涼風、鳥の囀りを楽しみながらコーヒーをいただいていた。

ふっと裏山を見ると、白い細かな優しげな花を付けた大きな木が目にとまる。
双眼鏡で見るがはっきりとは判らない。
「今まで気がつかなかったんだね。」「なんだろう??」「近くに行ってみようか...。」と、お茶を中断し
て探訪に出掛ける。
山の斜面を登り、木の傍らで葉や花を見ながら、あれこれと少ない知識を巡らしていた時である。
車のドアがバタンと閉まる音がかすかに聞こえた。
「アレッ、もう来たのかな?」
知人が昼食のメインディッシュを届けてくれるという電話を前夜に受けていたので、枝越しに小さく見え
る野迫川倶楽部の入口付近を見てみる。
「違ったみたい。隣りの敷地に入っているみたいだから、フキを採っているんじゃない?」
「そりゃあ、こんなに早くは来れないよね。」
そう話しながら私たちは木々を探索し、ぶらぶらと中ほどまで降りてきたのだが...。

いつの間にかフキ採りの三人組は隣地との境界辺りまで近付いている。
境界には動物よけのために、簡易ネットを張り巡らしてある。
その頃には私たちも山を大分降りていて、中年の女二人男一人だという区別や、話し声も認識できるよ
うになっていた。
なおも降り続けて、相手の顔がはっきりわかる地点まで来た時である。
男性がネットの中を覗き込んでこう話している。
「ここん中にたくさんあるやんか。ここから入れるわ。」弛んだネットの一部分を指差している。
そして、私たちと顔が合っても平気で乗り越えようとしているではないか。
「私有地ですよ!!」思わずきつい言葉が口を突く。
「エッ、何やの??」三人組は怪訝な顔をして私を見る。再度、「私有地ですよ!!」
「私有地やねんて。採ったらあかんねんて。」「ヘエーッ。」
ふてぶてしい態度で、「すみません。」のひと言もなく、彼等はしぶしぶ立ち去っていった。

村のおばさんの話を思い出す。
「町に住んでいる娘がフキの炊いたんを喜ぶもんで、畑に寄せ集めて育てとったんや。いい具合に育っ
てな来週の日曜には採りにおいでやって電話したったんやけど、その日曜が来るまでに全部盗られて
しもうて...。」
そのガッカリと落ち込んだ表情ときたら、私も切なくなるほどだった。
あまり盗られるので、思い余って畑に高いフェンスを張った家もあるそうな...。

自然に生えているものと育てているものの区別がつかない、などということはほとんどあるまい。
公有林や、放置されている私有地などは山菜の採取も許されるかもしれないが、管理されている土地
の、それも仕切られたネットの内側に足を踏み入れてまで盗ろうとするほど、人は下賎の心になれるの
だろうか。(ちなみに、隣地にも「管理地、立ち入り禁止」の看板は立っている。)

野迫川倶楽部の山菜も、決してそこにただ増えたものではない。
飛んで来た種が芽吹き、小さな苗になり、それを集めて大事に何年も育ててきたものである。
大きくなったタラやウドが種をつけると採り蒔きし、愛しみながらまた何年もかけて育てる。
そしてやっと、倶楽部内で山菜を楽しめるようになったのである。
フキも然り。花たちの間に芽吹いた小さなフキを、一ヶ所に集めて育培している。
おまけに本人は、大事のあまりにまだキャラブキさえも作ったことがない。

自然の恵みをいただくことと、他人(ひと)が育てているものを盗ることは話が違う。
彼等は町に住んでいて、その自分の庭先から大事に育てているものを無断で持って行かれても寛大な
のだろうか?
こんな連中にはこの6年間で初めてお目にかかったのだが、一部の常識のない人のせいで、マナーを
守って山菜を楽しんでいる人たちが大きな迷惑を蒙ることになる。

怒りは通り越して、ただただ、空しさだけを感じている...。
          

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